【ネタバレ・あらすじ】「ソロモンの偽証」を読んだ感想!全巻(1部・2部・3部)

宮部みゆきの著者「ソロモンの偽証」を全巻(1部・2部・3部)読みましたので感想と評価を書いていきます。
「ソロモンの偽証」のあらすじは次の通りです。

クリスマス未明、一人の中学生が転落死した。柏木卓也、14歳。彼はなぜ死んだのか。殺人か、自殺か。謎の死への疑念が広がる中、“同級生の犯行”を告発する手紙が関係者に届く。さらに、過剰報道によって学校、保護者の混乱は極まり、犯人捜しが公然と始まった――。ひとつの死をきっかけに膨れ上がる人々の悪意。それに抗し、真実を求める生徒たちを描いた、現代ミステリーの最高峰。

クリスマスの未明に学校から転落死した柏木卓也の死の真相を同級生たちが、明らかにする物語です。
当初は自殺で片付けられていた転落死ですが、3人の不良が突き落としたのをみたという告発状により、殺人の可能性が出てきます。

中学生は死の真相を突き止めるために、告発された不良を被告人にして学校内裁判を開始します。
学校内裁判を開廷すると、警察や学校など大人達が突き止められなかった事実が中学生によって次々に明らかにされていく。
果たして柏木卓也の死の真相とは?

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アプリ・電子書籍ライター タケシ
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【82.5点】「ソロモンの偽証」の評価

「ソロモンの偽証」全巻(第1部〜第3部)
タイトル:ソロモンの偽証
著者      :宮部みゆき
総合評価:82.5点(個人の感想です。)
物語4.0
登場人物4.0
世界観5.0
構成3.5

「ソロモンの偽証」の総合評価は82.5点です。
中学生の学校内裁判という世界観は僕は大好きで面白かったのですが、前半部分が長くて少し退屈してしまったので、構成の評価を低くしています。
単に僕が長編作品を苦手としているのも影響していますが…。

ということで4つの評価項目についてネタバレありで感想を書いていきます。

himarayaの音声配信でも感想を述べていますので、こちらも聞いてみて下さい。

物語

    「ソロモンの偽証」は中学校で生徒が転落死した事件をめぐり、生徒自身が校内裁判という形で、真実を追い求めていきます。
    3部構成の長編作品で序盤から散りばめられていた伏線が、裁判の論戦の中で少しずつ明らかになっていくのが面白い。

    また、読者目線では分かっていた事実が裁判で公になることで、疑念が晴れたりする様子が痛快でした。
    例えば森内先生が告発状を破り捨てたのは、隣人の嫌がらせによるものだったなど。

    弁護人側と検事側の裁判での戦いに関しては、意外な人物を証人に呼んだりして、展開に引き込まれていきました。
    ただ、検事側の主張の根拠が告発状というのが弱い感じがします。
    読者目線だと最初から告発状が嘘だと分かっているので、なんで裁判やってるんだろ?とたまにモヤモヤします。
    裁判の目的自体は真実を明らかにすることなので、そんなに気にするポイントではないとは思いますが…。

    最終的には登場時点から怪しかった神原弁護人が、証人として召喚され事実を話していくのですが、そこに驚きはありませんでしたが、神原に対する柏木の悪意には驚かされました。
    死んだ柏木に対しての感情が、可愛そう→嫌なやつ→考えすぎでは?→可愛そう→やっぱ嫌なやつ、という風に動いていきます。

    死んだ柏木をただかわいそうな中学生で終わらせなかったのが、この物語が面白いところかなと。
    本当の被害者は松子だけなのです。

    登場人物

    登場人物は長編作品ということで主要人物だけでも10人以上おり、脇役の人物も合わせれば小説としてはとても多い。
    しかも物語を楽しむ上では登場人物の性格やバックグラウンドを把握していないと、後半ではついていけない部分もある。
    なので出てくる人物一人一人をしっかりと覚えておかなければいけない。

    各登場人物については外見の特徴や性格、能力、過去など掘り下げが多いので、読んでいけば自然と覚える事ができる。
    特に中学生の登場人物が多く、目立った生徒だけではなく、おとなしい生徒にもスポットライトを当てているので、感情移入できる登場人物が誰でもいそうです。

    第2部からは学校内裁判の開催が決定されるわけですが、そこからは中学生とは思えない能力を発揮する人物が多くなります。
    特に検事の藤野と弁護士の神原、廷史の山崎は超人中学生です。
    中学生という設定には無理を感じたけど、これくらいないと物語は面白くないのかもしれない。
    弁護人助手の野田など普通の中学生っぽい人物もいたので、なんとか中学生という設定で乗り切った感じかな。

    文庫本には人物相関図が掲載されているので、ちょっと忘れてしまってもすぐに思い出せるので親切です。

    世界観

    中学生が学校で自殺をするという現実でもありえなくはない事件と、学校内裁判という現実では起きないだろう事柄がある、現実味を感じさせるフィクション
    警察や学校の調査では納得がいかない中学生達が、自分達で裁判を行い真実を追い求めるという一連の流れはとても面白い。

    しかし読んでいると、どうして中学生に思えない部分もあり高校生とかでも良かったのでは?と読んでいる最中は感じていました。
    最後まで読んでみると、柏木の自殺するまでの心情は中学生という時期の悩みであり、中学生という設定に納得した部分もある
    高校生の場合、柏木が学校というシステムに見切りをつけて不登校になるという展開では、今更ですか?感が否めないので。

    あとはバブルという時代背景もこの物語には最適だったと思う。
    手書きの告発状や公衆電話のくだり、バブル景気関連の事件など、物語を構成する重要な要素が、あの時代だからこそできることばかり。
    中学生裁判が現代では伝説として語り継がれている、という表現がしっくりきました。

    構成

    構成について思うことは序盤を読むのが本当に辛いということです。
    僕は文庫本で読みましたが、第1部にあたる1巻と2巻は事件の発生と登場人物の紹介でほぼ終わるので、面白ポイントがあまりないです。

    その状態で1冊500ページはあるので1,000ページ分を読むのは、モチベーション維持が難しいところ。
    飛ばし読みしようにも序盤をちゃんと読まないと終盤の楽しみが減ります。
    1番最初に描かれた公衆電話のシーンが裁判の終盤で大切になってきたりするのです。

    中学生裁判がメインの話ですが始まるのは第3部。
    第1部を乗り越えたら第2部からは裁判の話が出てきて調査が始まるので、2部からはだいぶ読みやすくなります。
    とはいえエンジンがかかってくるのでは第3部の学校内裁判が開廷してからですけどね。

    あと「ソロモンの偽証」では第1部〜第3部まで色んな人の視点で物語が進みます。
    そのため登場人物について深く掘り下げられていて、文章量も増えているのかなとも感じました。

    総評 タイトルについて

    長編作品であり最後にどっと盛りがるので、最後まで読み進めるという確固たる意思がある人におすすめです。
    最後まで読めば確実に楽しめると思うので、途中で諦めずに読み進めてみて下さい。

    「ソロモンの偽証」というタイトルについては、ソロモン王という圧倒的に権力を持っている人物が嘘をついていると解釈しました。
    安直に考えれば神原なのですが、柏木やメディアなど別の登場人物にも当てはまります。
    その辺は個人の解釈なのでしょう。

    僕は作品を通して権力や正義など圧倒的な力の裏には何らかの嘘が隠れている、みたいなイメージで捉えています。